なぜ家を壊してしみじみしているとむやみに腹が減るのか

versaloft2006-10-27


家の取り壊しをした。
中学校から結婚して独立するまでを過ごした家である。父が土地を見つけて、そこへ家を建てるあいだも一緒に連れられて通ったし、始まりから終わりまで見届けたことになる。建造物としてはまだまだしっかりしていたし、未練がないわけではなかったが、誰もいない古屋がそのままなのは不用心でもあるので壊してしまいたいという母親の希望であったので、それに添うことにした。

結婚以来引っ越しは二度もしたので、古巣とさよならする気持ちは知っていたが、存在していた「家」を無くしてしまうのは初めての経験である。かなり不思議な気持ちだ。
ついこの前まであった空間が無くなると云うだけだが、その階段の感触や、応接間に立ったときの眺め、庭を望む窓のかたち、などなど感覚の中にあるディティールが、まるで映画のような、作り事のようである。

あとの空き地はきれいさっぱりと、庭がどこにあったのかも分からないほど見事な片づけっぷりだ。38年前、今はもういない父と訪れた時も、こんな風景だった。

依頼主の業務として確認作業を終え、写真を数枚撮り、帰ろうとバス停に立っているとむやみに腹が減っている自分に気がつく。いつも通りの朝食を済ませてきたのに、空腹感が襲ってきた。おいおいここは空腹感じゃなくて空虚感だろう。と自分につっこんでみる。
もしかすると喪失感は、人格によっては形を変えて現れるのかも知れない。食い意地が張っていると妙なセンチメンタリズムもうどんひとつで解決だ。