なぜ昔のマンガを思い出すといのいちばんに宮谷一彦になるのか

岡崎英生『劇画狂時代「ヤングコミック」の神話』を読んだ。

マンガ雑誌ヤングコミックの編集者だった著者が、当時を回顧する。裏話やゴシップにあふれていて興味深い。話があっちこっちに飛ぶし、固有名詞がほとんど解説なしに出るしで、普通の人には何が何だか判らないだろうが、僕はけっこう楽しめた。70年代のマンガ状況を知る上でのかなり偏ってはいるけど貴重な資料だといえる。どこまでホントなのか、勘違いなのかわかんないこともいろいろあるし、誰にでもお勧めしないが、あの時代を思い出すにはいい本だ。

中心になるのは宮谷一彦上村一夫との話だ。
宮谷一彦はほんとうにかっこいいマンガ家で、COMに掲載されていた彼のマンガは、絵もセリフも中学生だった僕を魅了した。テレビでも映画でも小説でも、こんなかっこいいものは他に知らなかった。彼が描くクルマやオートバイは、他の漫画家が描くのっぺりと記号的なモノと違って、汚れや傷まで本物のクルマだったのを思い出す。

もちろんヤングコミックに彼が描いていたマンガを僕が実際に読むのはずっとあとになってからで、この本に書かれているアシスタントを連れての集団蒸発シーンはそんな売れっ子時代の話だ。編集者として執筆を見張っていた筆者がぼう然とするシーンでこの本は始まるが、読んでいる宮谷ファンとしてはなかなか痛快なシーンでもある。

ハービー・マンの『メンフィス・アンダーグラウンド」を聴きながら読了。

劇画狂時代―「ヤングコミック」の神話

劇画狂時代―「ヤングコミック」の神話