なぜスプーンを握り締めて「のっとぎるてぃ」と呟いているのか

versaloft2006-10-05


12人の怒れる男」という話がある。
アメリカのある地方の裁判で殺人を犯した少年が裁かれている。その陪審員たちが裁判の評決をまとめようとする。最初はほぼ全員が有罪だと決めつけていたのに、たった一人無罪を主張する陪審員がいる。彼に説得されるかたちで、やがて他の全員の考えが変わっていく、というスリルある知的な密室劇だ。ヘンリー・フォンダの映画も有名だが、僕は20代のころパルコ劇場で石坂浩二演出・主演の芝居を見た。(このとき最前列という夢のような席で見ていたら、小松方正に間近で怒鳴られ、おしっこちびりそうなほどビビリました。)
アメリカの考える民主主義、正義、社会のあり方が、よくわかる話だと思います。

で、今日の話題は丸の内TOKIAインデアンカレーだ。
あれー?なんだよー、ひさしぶりに芝居の話かと思ったら、また食い物かよー。そうなんですまた食べ物のはなしなんです、すいませんすいません。

以前にも書いたけれど、インデアンカレーは大阪からやってきたカレー屋さん。スタンド式の、気取りの無い店構え。メニューは三種類しかない。カレー、カレースパゲティ、ハヤシライスだ。もう開店して一年だが、僕はすっかりここのカレーのトリコである。夜オフィスに残って仕事をしていると、どこからか声が聞こえる。

いんであ?ん?、いんであん?♪どんどこどこどん♪

それは嘘だが、頭の中でイメージが像を結んだらもう逃げられない。電話がなろうがメールが届こうが、もう止まらない。財布を持ってずんずん歩き、いつのまにかTOKIAの地下に立っているのである。

いんであ?ん?、いんであん?♪どんどこどこどん♪

昼間は大勢のお客が並んで待っているけれど、夜の7時ごろならば待たされることも無い。つかつかとカウンター席に座り、「カレー、レギュラー」と注文する。平たいオーバルのお皿に東京ドームのようにご飯が盛られ、独特の色をしたカレーが美しく均一にかかっている。精緻という表現が適切かわからないが、お作法として美しいのだ。そして、テーブルに置かれたときには、すでに香りが湯気とともにインデアン中毒患者に襲いかかっている。うひー。

いんであ?ん?、いんであん?♪どんどこどこどん♪

はじめは甘い。
「うん、甘いな、このカレーは甘い」
ほぼ全員一致で甘いカレーなのである。ところが二匙三匙と食べていると、ヘンリーフォンダが、あるいは石坂浩二が立ち上がって言い放つのだ。
「このカレーが甘いというのは間違っている」
「なにをいうやら、あんなにみんな甘い甘いと云っていたではごわはんか。マンゴチャツネがどうしたと語っていたではおまへんか。それがどうした、え?おまえもおみゃーもおんしも、ばってん意見を変えるのかもし?」
いつのまにか形勢は逆転し、食べ終わるころにはすっかり
「このカレーは辛いッたらありゃしない」
という意見が大勢を占めるようになる。

それでも、たったひとり最後まで、
「このカレーは甘いわい!そうにに決まってる!」
と叫ぶ小松方正がいる。
が、冷たい水を飲み干してご馳走さまと云うころには
「ううう、辛い・・・」
と跪きすすり泣いているのである。

というわけで今晩も食べてきました。インデアンカレー730円です。
ごちそうさまでした。