なぜブラスバンドが舞台の小説を読んでしみじみ感心しているのか
地方の高校でブラスバンドをやっていた人間たちが、卒業後25年経って再結成を計る、というあらすじはこの小説を理解する上でたいして参考にならない気がする。熱い友情美談や、人情話を期待してもがっかりするだろう。甘酸っぱい、が醗酵して苦みがある、でもユーモアがあって美味い。
作者もそうらしいが、僕もブラバン出身なので、たくさん登場する人物像がリアルに感じられる。世の中では楽器による性格分析は笑い話のように語られることが多いが、事実当たっていると思う。そんな実感を持っている人が読めば、登場人物の多さはほとんど気にならないはずだ。だって理由があってそこにいるんだもの。もっと多くても僕は平気だ。
主人公が父親に買ってもらったベースの話など「描かれていないその後」が気になることは多いが、作者は理由があって書いていないようだ。そんなこと自分で考えりゃ分るだろう、ということだなきっと。
この作家、興味がわいたので別のも読んでみようと思う。この小説とはぜんぜん違うホラーが得意らしい。文庫で読んだのだけれど、ハードカバーのときは福山庸治のイラスト入りだったらしい。そっちで読みたかったなあ。
- 作者: 津原泰水
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2009/10/28
- メディア: 文庫
- クリック: 55回
- この商品を含むブログ (54件) を見る