なぜ天気予報を聞いてあわてて温泉まで走り出すのか (佐渡紀行 その4)

前回書いたように、佐渡のはじっこ、二ツ亀、大野亀を越えた宿に泊まったのだが、夜、食事しながらテレビの天気予報を見ていると「明日の佐渡は雨」なのだという。これは困る。

女将さんが「朝降っていたら、バスのくるところまでクルマで送ってあげる」と云ってくれる。ありがたい事である。そのときにはお願いするということで、部屋に戻り爆睡した。日本酒が効いたようだ。

朝、目覚めてみれば薄曇りだが降ってはいない。朝飯前の運動に、宿の前の坂を下って海まで駆け足で行ってみる。部屋から見下ろしていたクジラのような岩が巨大な岩だと分かる。波が静かなのがとても不思議だ。水が澄んでいて、それも海の色としては不思議に思える。

船を置く場所があって、漁船の出て行った跡があるのだが、人影はない。ここで攫われると誰にも分からないなあ、と思いつつ駆け足で坂を上り宿まで逃げ帰った。女将さんは曽我ひとみさんと同じ村で、行方不明になったときには村中大騒ぎになったのを憶えているという。リアルで、新しい傷跡なのだなあ。ぶるぶる。これもまた佐渡である。

朝ご飯を食べても雨は降っていない。天気予報では9時頃までは降らないが、昼前には降るだろうという。昼前って何時?不安だし送ってもらうのはありがたいが、それでは何の為に佐渡に来ているのか分からないので、相川町の温泉施設を教えてもらい、ここを目指して走ることにする。相川の町は大きい町らしく、バスも本数があるようだし。

8時には宿を出て、また走り始める。ケツが少々痛い。ひとつだけ大きな山を越えたがそこからは下り坂。むしろスピードを殺さねばならないほど急な坂である。これを逆に登るのは辛かろうなあ。佐渡ロングライドでは逆回りなので、とうぜんそうなる訳だが。

坂の下にバスの停留所があった。宿から4kmほどのところ。しばらく行くと古びたバスにすれ違った。あれが、雨なら乗るはずだったバスだったのだろう。

ここからは大きな山はない。が、アップダウンはけっこうある。30kmほど走って小休止。スポーツドリンクを飲み、ソイジョイを齧っておやつにする。見れば安寿と厨子王の石碑が建っている。そうか、そういえばあれは山椒大夫に騙され売られた安寿が佐渡の鳥追いになった母親を捜して佐渡にやってくるんだっけ。子どもの頃東映動画のアニメで見ました。その時、カルタも買ってもらった。「なさけ無用の山椒大夫」とか。可哀想で遊ぶどころじゃなかった。盲目の母親に抱かれて、力つきた安寿姫は死んじゃうんだよなあ。あんじゅこいしやホーヤレホ。

再び走ると、えらく長いトンネル。2kmはあるだろう。飽きて、大声で歌う。そんな能天気な自転車をバスが追い抜いて行く。僕を乗せ損ねたバスである。

道沿いの田んぼでは、雨が降る前にと稲刈りに精を出す人々。

ほどなく、背の高い建物が見えて来た。はたして女将さんが教えてくれた西佐渡警察の建物だ。つまり相川に着いたのである。ここを右に曲がるとワイドブルー相川という温泉施設がある。この時点で10時を少し過ぎたところ。

走行距離44km。本日はここまで、と決めて自転車を輪行袋に入れる。と、ぽつぽつと雨が降り出した。あぶないあぶない。なんという幸運であろうか。

続きはまたこんど。