なぜ山上たつひこの漫画を読むと中学生の自分がびびりまくるのか

最新の「光る風」を手に入れた。

「光る風」は昭和45年大阪万博の年に少年マガジンで連載されていた近未来SF漫画だ。山上たつひこが「がきでか」いわゆるこまわりくんの漫画で大ヒットを飛ばすまえにもシリアスな漫画で傑作を多数書いていた話を以前ここにも書いたけれど、その最もメジャーな作品がこれだ。

少しだけ別の歴史を歩んでいる「日本国」で、青年達が巻き込まれる隠された事件と、戦争に向かって再び突き進む時代を描く。右翼思想、左翼思想、革命、軍隊、暴力、陰謀、国家権力と保身、愛情と憎悪。狂気とちょっぴり青春のときめき。当時も凄いと思ったが、今読んでもヘビー級だ。

あるシーン。
公害のために奇形で生まれた者たちが隔離される村に、国防軍の徴用部隊がやってきて男達を強制的に連れ去っていく。「ぼくは戦場で死ぬのはいやだ」と抗う少年を、徴用係が笑いながら射殺する。「よかったよかった。望み通り戦場じゃなくて、親の前で死ねて」

当時でも場面転換とコマ割の斬新さ、抽象的なカットのインサート、映画で云うモンタージュの技法など実験的な試みがふんだんにあって、しかも少年漫画とは思えない暗くて深い内容に、まあ、僕らはしびれたわけだ。
とにかくベタの面積が多くて書き込みが多くて、全体に「黒い」漫画だった。

この漫画を単行本で買うのはたぶん三回目だ。今まで収録されていなかったカットも復活させた完全版なのだという。分厚い一冊で、小口が真っ赤に塗られていて迫力も十分だ。

今の時代に復刊させた出版社の人々の熱意を応援するために、俺が買わなきゃ誰が買う、と言う気持ちで探し回って、ようやく買わせて貰いましたよ。

光る風