はじめて新しいオフィスへ出社する。
再開発の地域は駅から歩くにはわかりにくい。ややこしい地下鉄の出口から出て、ややこしいビルの通路を歩き、会社に着くまでに10分はかかったと思う。途中、仰天するような電話がかかってきて、さらに混乱する。

中学高校と師事した音楽の先生が急逝されたという知らせ。
未だに師弟関係を続けている唯一の「先生」だった。音楽を通して受けた影響は計り知れない。芸術家であり、教育者であり、インテリであり、精神的な貴族であったと思う。先月のバーベキューパーティが顔を合わせた最後になってしまった。

仕事をやりくりさせてもらい、駆けつけることに。しかし、東京もはずれの方なので着いたときにはすでに夜の7時すぎだった。すでに大勢の教え子が集まっている。座敷には先生が無言で横たわっている。枕元には誰が置いたのか「呉春」が置かれている。インシュリンを打ちながら煙草も酒も止めなかった先生に相応しい。