なぜiPodの電池交換でこんなに話が長いのか

自分の気持ちを分かってもらえないのは哀しい。

iPodの電池がダメになったんだ」
「で?」
「自分で入れ替えた!」
「ふうん・・・で?」

今年になってからこんなにもドキドキしたことはなかった。でも誰に言ってもこの「達成感」を理解してもらえない。

iPodという携帯音楽プレーヤーは世の中を変えてしまった機械だと思う。もしもiPodがなければ、Walkmanはトップブランドのままで、SONYというブランドも安泰で、会社があんなことにならなかった気もする。僕はiPodを常に持ち歩く。2004年発売のモノクロディスプレイだからもう年代ものだけれど、これまではアップルケア(保証延長)を利用して、大きな修理もなしに快適に使えてきた。しかしここ数ヶ月、目に見えて電池の減りが早くなって、ついにはMacにつないで同期中にもバッテリー不足のアラートが出るようになってしまった。同期中だから電源はケーブルから供給されているはずである。それなのに電源が足りないというからにはよっぽどバッテリーがへたっていると言うことのようだ。で、ついには懐かしくも恐ろしいサッドマックが出た。サッドマックとは古いアップルユーザーならおなじみの「もうだめです」というサインである。Macintosh SEではおどろどろしい音とともにこのマークが出た。もう機械としてダメ、助けを呼んでください、という悲鳴のようなサインだった。iPodの場合はサッドマックと言うよりサッドポッド??いうべきかもしれない。絵もiPodに変わっているし。この絵を出してノビているiPodが可哀想でならない。それを見ている自分もみじめでならない。

解決策は簡単で、アップルストアにもって行けばいい。バッテリーだけが問題なら、交換してくれる。前に同じことが起こったときには、本体まるごと新品に換えてくれた。ただし、すでに保証期間は終わっているので今回持ち込めば6800円だとアップルのサイトにある。昔より安くなった気がするが、それでもまだ高価ではある。7000円近くも出費するのであれば、そろそろ新しいモデルにしてしまった方がいいのではという考えも頭をよぎる。

ネットを検索して見ると、自分でバッテリーを手に入れて交換した、というツワモノがぞろぞろいる。そんなに難しくないよ、やってみようよ、簡単だよ、ちょっとコツは要るかもしれないが、怖くない怖くない・・・・・。交換用のバッテリーはあちこちで売られており、予想したより安い。2500円で直るなら、やってみようかという気になり、ポチッとしたらすぐ届いた。しまった、うっかり者を嵌める罠だったかと、配達された封筒を見て思ったがもう遅い。

もし失敗したらもうアップルストアでは修理さえ受け付けてくれないかもしれない。よしんば受け付けてくれたとしても「ケチだから身の程知らずのことを企てたのに、ドジだから失敗して、修理に頼ってきた馬鹿オヤジ」という目で、ジニアスバーの利発そうなお姉さんに見られることを覚悟しなければならない。いやでも緊張する。

封筒を開けると、ひらべったいチョコレートのようなバッテリーが、青いプラスチックの工具(ふたつ)とともに入っていた。それだけのことである。ガイダンスはなにもない。この工具でiPodを開腹して、バッテリーを入れ替える。それだけのことである。でも、この工具ってほとんど役に立たないんですけど。なぜならiPodはシンプルすぎる構造で、金属の箱と、プラスチックの蓋、それがただ嵌っている。ねじ止めではないので、プラスチックの蓋にあるツメを、外さねばならない。でも外すためには隙間をつくってツメを押さねばならない。その隙間は、どこにもない。工具の先も入る隙間はないのである。

親切なサイトは写真付で交換の仕方を教えてくれている。ありがたいものである。テレフォンカードを隙間に差し入れる、と書いてあった。・・・・テレフォンカードなんて持ってないよ。近所の電気屋のポイントカードが出てきたので、薄いからこれでいいやと試して見る。上から、下から、右から、下から・・・・隙間がないから入らないよ。ついにはカードの角が崩れてぶよぶよになってきた。ああ、そういえばこの電気屋は潰れてもう建物も取り壊されて、と縁起でもないことが思い出される。スポーツ屋のポイントカードに交換。そういえばこのスポーツ屋も客が入らず身売りされて・・・。などと思いつつグリグリやっていたら偶然角が隙間に入った。しめた。
カードの短い辺を力を入れて押し込んで、それを一方に片寄せる。これに沿って、靴べらの要領で硬いカード(やっぱりどこかのポイントカード)をぐいぐい押し込む。思い切って入れると、おお、蓋と本体がゆっくりだが隙間が空いてきた。ここまでががいちばん難しい、と、どのサイトにも書かれていたので、半分安心した。

開腹すると、なんだか単純なつくりだなあ、これがiPodの中身か。こんなんでベストセラー、ロングセラーの大当たりかよ。うまくやったなあ、スティーブぅ。なんかおごれよジョブスぅ、と隣にいたらにやりと笑うシーンであるが、実はまだドキドキしている。だって、webで見た写真と様子が違うんだもの。写真ではハードディスクを除けると右下にあるはずなのに、真ん中ちかくにバッテリーがあるんです。場所が違うだけならいい。でもそこから出ている配線が、小さいけれど基盤の下をくぐっているんです。ということはこの基盤も外さなきゃいけないの?それ、僕がやんの?ぶきっちょな僕が?

(長くなったので、続く)